はじめに

1907年 James Ramsay Huntにより水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)による顔面神経麻痺の疾患概念が報告され、後にラムゼイ・ハント症候群 (以下、ハント症候群) と呼ばれ現在に至っています。また、1972年にMcCormickが、特発性顔面神経麻痺であるベル麻痺の病因として単純ヘルペスウイルス (herpes simplex:HSV) の関与を提唱し、1996年、村上らにより立証されている。

急性に発症する顔面神経麻痺の多くは下図のように、ベル麻痺とハント症候群が全体の75%を占めます。

顔面神経麻痺

図1 顔面神経麻痺の内訳

単純ヘルペスウイルス性顔面神経麻痺

ベル麻痺は、顔面神経麻痺の60%を占める(図1)。HSVは初感染時、口腔から味覚(鼓索)神経を介して顔面神経の膝神経節に潜伏感染する。ストレスなどに伴う抵抗力の低下に加え、寒冷暴露などの局所刺激が重なり、顔面神経管内の膝神経節で再活性化したHSVがウイルス性神経炎を来し浮腫が生じると、管内の圧が上昇し顔面神経が障害されて麻痺が発症します。したがって、できるだけ早く治療を開始すべきです。

治療はウイルス増殖を阻止する抗ヘルペス薬と抗炎症、抗浮腫作用を持つステロイドを発症早期に併用投与します。しかし、すでに障害された神経線維に対する抗ヘルペス薬とステロイドの治療効果は明らかでなく、麻痺の進行予防であり、軽い麻痺にとどめることで、早く完全な神経回復が期待できます。

ベル麻痺の急性期治療

※耳介の発赤や強い耳痛を伴う場合には不全型ハント症候群を考慮しバラシクロビル3,000mg/日,7日間投与

図2 ベル麻痺の急性期治療法

水痘帯状疱疹ウイルス性顔面神経麻痺

顔面神経管内の膝神経節で再活性化したVZVにより発症したハント症候群は、典型例では顔面神経麻痺、耳介帯状疱疹、第8脳神経症状(めまい、難聴、耳鳴)を呈する。ベル麻痺に次いで、末梢性顔面神経麻痺の約15%を占める(図1)。神経細胞が破壊されて障害は高度となり、ベル麻痺よりも重篤で、顔面神経麻痺の治癒率は70%程度と低い。

ハント症候群に対する治療の基本は抗ヘルペス薬であり、経口投与の場合バラシクロビルで3,000mg/日、アメナビルで400mg/日を7日間投与する。一方、ステロイドの明確なエビデンスはないが、その免疫抑制作用による副作用よりも抗炎症作用による効果の方が大きいため、広く使用されている。投与量は図3のように、中等度以上の麻痺は入院の上、点滴投与する。

ハント症候群の急性期治療

図3 ハント症候群の急性期治療法

(羽藤直人:臨床でのトピックス―耳鼻科領域.日医雑誌 2020;149:1227-1229.より引用)

顔面神経麻痺のリビリテーション

治療して徐々に麻痺の改善を待ちますが、後遺症がでることがあります。

後遺症

  • 病的共同運動
  • 顔面拘縮

を予防するために

  • 急性期・・・麻痺が起こり顔が動かない
  • 回復期・・・顔の動きが戻りつつある
  • 生活期・・・麻痺の回復が止まって以降

の3つの時期に分けたそれぞれのリハビリテーションの実際は→こちら

(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 公式チャンネル)