嗅覚障害の定義と分類

定 義嗅覚 (きゅうかく) (olfaction,sense of smell) とは、「におい」を感じる感覚のことであり、化学感覚のひとつである。嗅覚障害 (olfactory dysfunction) とは、この嗅覚になんらかの異常が生じている状態のことである。
部位別分類
基本的分類量的嗅覚障害 (quantitative olfactory dysfunction)
spacer嗅覚脱失 (anosmia)
spacer嗅覚低下 (hyposmia)
質的嗅覚障害 (qualitative olfactory dysfunction)
spacer異嗅症 (dysosmia)
spacer嗅盲 (olfactory blindness)
spacer嗅覚過敏 (hyperosmia)
spacerその他
spacer悪臭症 (cacosmia)
spacer自己臭症 (egorrher symptom)
spacer幻臭 (hallucination)
spacer鉤回発作 (uncinate epilepsy)

図1 嗅覚障害の部位別分類

病態別分類@気導性嗅覚障害 (conductive olfactory dysfunction)
A嗅神経性嗅覚障害 (sensorineural olfactory dysfunction)
B中枢性嗅覚障害 (central olfactory dysfunction)

原因別分類慢性副鼻腔炎・・・・好酸球性副鼻腔炎では早期に嗅覚障害をきたす
アレルギー性鼻炎・・気導性嗅覚障害で予後良好だが、嗅裂炎があると難治性
感冒後・・・・・・・風邪をひいてからにおいがしない。鼻内視鏡、画像検査異常なし
頭部外傷・・・・・・鼻内視鏡、嗅覚検査、画像検査などによる診断を要する
神経変性疾患・・・・パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患で早期に出現
薬物・・・・・・・・頻度は少ないが、引き起こす可能性がある薬物は多岐にわたる
手術 (脳、頭蓋底、
鼻副鼻腔) ・・・・・
術後に一過性または永久的な嗅覚障害
先天異常・・・・・・代表的な嗅覚障害は Kallmann 症候群
加齢・・・・・・・・年齢とともに感覚が低下してくる

嗅覚障害の診断

a.問診・・・・・・・・発症時期、嗅覚障害の程度、症状経過、味覚障害の有無、既往歴など詳細な問診
b.耳鼻咽喉科的診察・・鼻鏡検査、鼻内視鏡検査で特に嗅裂を観察する
c.画像診断・・・・・・単純X線、CT検査で嗅覚中枢の異常の有無や神経変性疾患の補助診断
d.嗅覚検査・・・・・・基準嗅力検査、静脈性嗅覚検査などで重症度判定する

嗅覚障害と生活の質(QOL)

嗅覚障害によってQOL (Quality of life) は低下する
嗅覚障害により患者がどのような点でQOLが低下し、日常生活に支障をきたしているかを知り、それを患者に説明することは、患者が快適かつ安全な日常生活を送るために重要である
嗅覚障害患者は、味覚の変化を訴え、料理の味付けに支障をきたしている
嗅覚障害患者は、食品の腐敗、ガス漏れ、煙に気が付かないなど、日常生活の危険にさらされている
調理師、ワインテイスター、化粧品販売、看護師、消防士などは職務に嗅覚障害の影響が及ぶ傾向にある

          

診療アルゴリズム

図2 嗅覚障害の診療アルゴリズム


エビデンス(科学的根拠)のある治療

鼻茸のある慢性副鼻腔炎による嗅覚障害に対して経口プレドニゾロン単独、またはステロイド局所投与の併用、内視鏡下鼻副鼻腔手術は有効である
アレルギー性鼻炎による嗅覚障害に対して鼻噴霧用ステロイドは有効である可能性があり、治療の選択肢の一つとして推奨される
感冒後嗅覚障害や外傷性嗅覚障害に対してエビデンスのある有効な治療法は、今のところまだない

日本鼻科学会編:嗅覚障害診療ガイドライン.日本鼻科学会誌56(4):487-556,2017より抜粋、一部改変


  • ひとくちメモ― 嗅覚トレーニング (嗅覚刺激療法) ―

嗅覚神経細胞は、再生する可能性が高いとされています。したがって、日常生活で意識して匂いを嗅ぐ嗅覚トレーニングが有効です。これは、嗅覚障害発症後、なるべく早い時期に開始します。具体的には、バラ、レモン、ユーカリやユズ、ヒノキ、ラベンダーなど、お好きな匂いのエッセンス3〜4種を1回15〜30秒、1日2回を毎日、3か月以上続けてみてください。「嗅覚刺激療法の動画