1.定 義

急性気管支炎とは、下気道感染により炎症が起きた状態であり、咳を主徴として肺炎を伴わない (胸部X線写真またはCTにて肺野に新たな異常陰影を認めない) ものとされる。

臨床症状では、5日間以上続く咳嗽が特徴とされ、喀痰は伴う場合と伴わない場合がある。通常は自然軽快し、軽快までに1〜3週間要する。

2.疫 学

急性気管支炎を引き起こす原因微生物の大半はウイルスであると報告されている。ウイルスの中でも急性気管支炎では、インフルエンザウイルス A型・B型、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス 1〜3型、ライノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルスなどが原因となりやすい。基礎疾患や合併症のない急性気管支炎では約 90%がウイルスを含む細菌以外の微生物に起因し、細菌の関与は6%とされています。これら細菌には Bordetella pertussis、Mycoplasma pneumoniae、Chlamydia pneuminiae などが含まれます。

一方、慢性呼吸器疾患 (COPD,気管支拡張症,陳旧性肺結核など) などの合併症がある際には、ウイルスに加え細菌感染の割合が基礎疾患や合併症のない場合に比べ増えるため (表1)、原因微生物は基礎疾患や合併症の有無で分けて考える必要があります。

なお、急性気管支炎と診断した際は、治療薬の使い分けや感染対策上の観点からまずインフルエンザとCOVID-19は最初に鑑別します (図1)。

表1.慢性呼吸器疾患 (COPD,慢性気管支炎) がある場合の
spacer急性気管支炎における主要な原因微生物

細菌ウイルス非定型病原体
Haemophilus infulenzae
Streptococcus pneumoniae
Moraxella catarrhalis
Pseudomonas aeruginosa
Enterobacteriaceae
H.hemolyticus
H.parainfuluenzae
Staphylococcus aureus
Rhinovirus
Parainfuluenza virus
Infuluenza virus
Respiratory syncytial virus
Coronavirus
Adenovirus
Human metapneumovirus
Chlamydia pneumoniae
Mycoplasma pneumoniae

3.治 療

急性気管支炎の原因微生物のその殆どがウイルスであることから、原則抗菌薬は不要です。しかし、COPDなどの慢性呼吸器疾患や免疫不全を含む重篤な基礎疾患がある場合には、細菌感染の関与やそれによる基礎疾患の重症化の危険性があります。したがって、基礎疾患がないまたは軽微である人と、慢性呼吸器疾患または重篤な基礎疾患を有する人では、抗菌薬の必要性を含む治療指針を分けて考える必要があります (図1)。

急性気管支炎

図1.急性気管支炎に対する治療の考え方

1)基礎疾患がないまたは軽微である場合

基礎疾患がないまたは軽微(高血圧、脂質異常症、コントロール良好の糖尿病など)である場合、成人の急性気管支炎に対しては原則抗菌薬は不要です。

発症から3週以内の急性咳嗽に対する他疾患や細菌性気管支炎の鑑別と抗菌薬の適応は図2。受診時に、既に咳嗽の強度がピークを過ぎている場合は、病原微生物は存在しない感染後咳嗽であることが想定されるため経過観察を行います。ピークを過ぎてない場合には、肺炎や肺結核の可能性について検討します。体温38℃以上、脈拍100回/分以上、呼吸数24回/分以上や胸部聴診所見の異常がある場合は肺炎を、2週以上の咳嗽があり、微熱や体重減少を伴うような場合には肺結核を疑い胸部X線撮影を行います。

百日咳は、小児においては咳嗽後の嘔吐や吸気時の笛音が特徴的ですが、成人においては典型的な症状を呈さないことが多い。そのため、家族などの接触歴から感染を疑う場合には、後鼻腔ぬぐい液を用いた抗原検査(イムノクロマト法)、核酸検出法(LAMP法)、抗IgM/IgA抗体、抗PT抗体の結果により診断します。百日咳と診断した場合は、マクロライド系抗菌薬の投与を行います。ただし、これらの抗菌薬治療による咳症状の改善効果は乏しく、周囲への感染性を低下させることが主な目的となります。

成人の肺炎を伴わないマイコプラズマによる急性気管支炎に対する抗菌薬治療については、その必要性を支持する根拠は乏しい。しかし、接触歴から強く疑う場合には、咽頭ぬぐい液を用いたLAMP法や酵素抗体法による抗原検出法の結果を参考にマクロライド系抗菌薬の投与を考慮します。

急性気管支炎

図2.咳嗽の鑑別と抗菌薬の適応(基礎疾患のないまたは軽微な基礎疾患を有する成人例)

治療薬の選択

a.ウイルス性急性気管支炎
抗菌薬投与は推奨されない
b.百日咳 (成人)
例:CAM 経口 1回200mg・1日2回 7日間、他
※カタル期を過ぎてからの治療は咳の程度や持続期間に対する改善効果はもたないが、周囲への感染を防止する目的で抗菌薬を投与する
c.百日咳 (小児)
例:CAM 経口 1回7.5mg/kg・1日2回 7日間、他
d.ウイルス感染後の細菌の二次感染 (小児)
AMPC 経口 1回 10〜15mg/kg・1日3回 5日間
その他の薬剤:以下を選択肢として考慮する
CVA/AMPC 経口 (1:14製剤) 1回48.2mg/kg・1日2回 5日間
CDTR-PI 経口 1回 3〜6mg/kg・1日3回 5日間、他
e.細菌性気管支炎 (稀)
市中肺炎に準じた治療を行う

2)COPD などの慢性呼吸器疾患または免疫不全を含む基礎疾患がある場合

COPD や慢性心不全を有する場合には、呼吸器感染症を契機に増悪することが知られています。特に、COPD を基礎として膿性痰を伴う急性咳嗽を訴える場合には、肺炎の所見がなくとも細菌感染による急性増悪を考慮し、抗菌薬の投与が推奨されています。また、肺炎や肺結核を除外するため積極的に胸部X線撮影を行います。

現状では、COPD などの慢性呼吸器疾患を有する人の急性気管支炎に対しては抗菌薬の投与を検討するべきですが、その他の基礎疾患に対しては個々の判断に委ねられます。感染により重篤化が懸念されるような免疫不全状態や重度の基礎疾患がある場合には、抗菌薬の投与が検討されます。一般的にCOPD 患者にはキノロン系抗菌薬が推奨されるもエビデンスは不十分です。

治療薬の選択

a.ウイルス性急性気管支炎
抗菌薬投与は推奨されない
b.慢性呼吸器疾患に合併した細菌性気管支炎 (成人)
第一選択 (経口薬)
レスピラトリーキノロン
例:LSFX 経口 1回 75mg・1日1回 5日間、他
第二選択 (経口薬)
AZM 経口 1回500mg・1日1回 3日間
CDTR-PI 経口 1回200mg・1日3回 5日間
SBTPC 経口 (375mg) 1回1錠・1日3回 5日間
CVA/AMPC 経口 1回250mg・1日3〜4回 5日間

(気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版).感染症学雑誌 96 Supp.:S1-S22,2022より引用一部改変)


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