1.定義

「咽頭および扁桃の急性炎症性疾患を示し、急性炎症が咽頭全体にまで進展し、咽頭粘膜や後壁のリンパ濾胞に炎症が起こっている状態」を急性咽頭・扁桃炎と定義する。急性炎症が咽頭粘膜に強い場合には急性咽頭炎、口蓋扁桃に強い場合には急性扁桃炎と区別するが、炎症はしばしば二つの領域に及び区別の必要がない場合には急性咽頭・扁桃炎 (acute pharyngotonsillitis) と表記する。

2.疫学と病態

のどの痛みを主症状とする病態を有する急性咽頭・扁桃炎では、ウイルス感染か細菌感染か、とりわけ
A群β溶血性連鎖球菌 (GAS) 感染であるか否かを判断することが重要となります。

  • 急性咽頭・扁桃炎の原因微生物の大部分はウイルスであり、最も重要な原因菌は小児、成人ともにGAS
  • GASによる急性咽頭・扁桃炎は小児期では学童期で頻度が高く、3歳未満の乳幼児では比較的まれ
  • 無症状の小児の20%以上に GAS 保菌を認める
  • 咽頭粘膜にのみ炎症が限局する急性咽頭炎の多くは抗菌薬治療の対象とならない

新型コロナウイルス感染症 (COVIT-19) は、流行株の変化とともに重症肺炎の病態から現在のオミクロン株では咽頭痛が主な症状を呈する病態へと変化している。そのため、咽頭痛の診療においては、COVIT-19を含めたウイルス感染を念頭に置き、抗菌薬を適切に使用することとなっています。

急性咽頭・扁桃炎の診断 (GASによる咽頭炎の可能性を判断する基準)

GASによる咽頭炎の可能性を判断する基準として Centor の基準またはその基準に年齢補正を追加した MacIsaac の基準 (表1) があります。これらの基準と細菌検査を活用し、抗菌薬を適正に使用します。
Centor の基準に基づく GAS による急性咽頭・扁桃炎のリスク (可能性) は、1点以下で1〜2.5%、2点
で5〜10%、3点で28〜35%、4点以上で51〜53%とされる。

表1.Centor の基準と MacIsaac の基準

Centor の基準
発熱38℃以上spacer1点
咳がないspacer1点
圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹spacer1点
白苔を伴う扁桃炎spacer1点
MacIsaac の基準:Centor の基準を年齢で補正
年齢 3〜14歳:+1点 15〜44歳:0点 45歳〜:−1点

小児ではこれらの基準と迅速抗原検査をうまく活用して抗菌薬を適正に使用することが推奨されています。成人例では小児と異なり痛みの程度を表現することが容易であり、急性咽頭・扁桃炎の程度が日常生活の障害に直結するため、重症度が検査や治療の選択に有用です。また、GAS 検出例では有意に重症度の基準が高かったことから、成人では発熱、咽頭痛、日常生活の困難度を指標にした検査、治療選択が有用です (表2)。スコアリングと迅速抗原検査を活用して抗菌薬を減らすことが重要視されており、スコアリングを用いた重症度評価に基づく治療選択が有用です。

表2.急性咽頭・扁桃炎の重症度分類 (成人)

0点1点2点
症状スコア日常生活の困難度さほど支障なし支障はあるが、仕事や学校を
休むほどではない
仕事・学校を休む
咽頭痛・嚥下痛違和感または軽度中等度摂食困難なほど強い
発熱37.5℃未満37.5〜38.5℃38.5℃以上
軽症:0〜1点spacer 中等症:2〜3点spacer 重症:4〜6点

3.治療

急性咽頭炎・扁桃炎に対する抗菌薬の適正使用

  • 原則として GAS 検出例のみを治療対象とする.

(ただし、Centor または MacIsaac の基準で1点以下の場合は GAS 感染の可能性が低いため、また Centor または MacIsaac の基準で4点以上の場合は GAS 感染の可能性が高いことから GAS 検査を
省略してもよい.)

※成人例では臨床症状に重症度も治療選択決定の参考とする。

  • Centor または MacIsaac の基準で1点以下、あるいは成人の軽症例は抗菌薬治療の対象としない
  • Centor または MacIsaac の基準で2〜3点、あるいは成人の中等症では GAS 迅速検査・核酸検査あるいは細菌培養検査を実施し、 GAS 陽性例に対して抗菌薬治療を検討する。
  • 抗菌薬の基本はアモキシシリン水和物である。成人の重症例では非ペニシリン系抗菌薬 (セフェム系、成人ではレスピラトリーキノロンも含む) の投与も選択肢として考慮する。
  • 投与期間は、ペニシリン系抗菌薬は10日間を原則とし、セフェム系抗菌薬は5日間投与も選択肢として考慮する。

急性咽頭炎・扁桃炎診療アルゴリズム

図1.急性咽頭炎・扁桃炎診療アルゴリズム (成人)

治療薬の選択 (成人)

基本

  • AMPC 経口 1回 500mg・1日3回 7〜10日間

その他の薬剤:以下を選択肢として考慮する

  • 経口セフェム系抗菌薬
    例:CDTR-PI 経口 1回 100mg (再発例では 200mg)・1日3回 5日間、他
  • レスピラトリーキノロン
    例:LSFX 経口 1回 75mg1日1回 5日間、他

(気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版).感染症学雑誌 96 Supp.:S1-S22,2022より引用一部改変)


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