メニエール病の疾患概念・病因・病態

疾患概念メニエール病は、難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する疾患であり、その病態は内リンパ水腫である。
病因・病態内耳は側頭骨の迷路骨包に囲まれた骨迷路と、その内部の膜迷路によって構成される。骨迷路と膜迷路の間は外リンパで満たされており、膜迷路は内リンパで満たされている。内リンパは蝸牛の血管条と前庭の暗細胞で産生され、内リンパ嚢で吸収される。内リンパの産生過剰または吸収障害で膜迷路の容積が増大した状態が内リンパ水腫であり、蝸牛ではライスネル膜が膨隆する。
メニエール病の病態は、その原因を特定できない特発性内リンパ水腫である。内耳疾患罹患後に発症する内リンパ水腫は続発性内リンパ水腫であり、高度感音難聴に罹患した後、長い年月を経て発症する続発性内リンパ水腫が遅発性内リンパ水腫である。
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メニエール病の診断基準

1)メニエール病 (Meniere's disease) の診断基準 2017年

A. 症状
1.めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は 10 分程度から数時間程度
2.めまい発作に伴って難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状が変動する
3.第[脳神経以外の神経症状がない
B. 検査所見
1.純音聴力検査において感音難聴を認め、初期にはめまい発作に関連して聴力レベルの変動を認める
2.平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める
3.神経学的検査においてめまいに関連する第[脳神経以外の障害を認めない
4.メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる
5.聴覚障害のある耳に造影 MRI で内リンパ水腫を認める

診断

メニエール病確定診断例 (Certain Meniere's disease)めまい
A. 症状の3項目を満たし、B. 検査所見の5項目を満たしたもの
メニエール病確実例 (Definite Meniere's disease)
A. 症状の3項目を満たし、B. 検査所見の1〜4の項目を満たしたもの
メニエール病疑い例 (Probable Meniere's disease)
A. 症状の3項目を満たしたもの
            

[診断にあたっての注意事項]

メニエール病の初回発作時には、めまいを伴う突発性難聴と鑑別できない場合が多く、診断基準に示す発作の反復を確認後にメニエール病確実例と診断する。


2)メニエール病非定型例 (Atypical Meniere's disease) の診断基準

(1)メニエール病非定型例 (蝸牛型) (Cochlear type of atypical Meniere's disease)

A. 症状
1.難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状の増悪、軽快を反復するが、めまい発作を伴わない
2.第[脳神経以外の神経症状がない
B. 検査所見
1.純音聴力検査において感音難聴を認める。聴力型は低音障害型または水平型感音難聴が多い
2.神経学的検査においてめまいに関連する第[脳神経以外の障害を認めない
3.メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる

診断

メニエール病非定型例 (蝸牛型) 確実例 (Definite cochlear type of atypical Meniere's disease)
A. 症状の2項目を満たし、B. 検査所見の3項目を満たしたもの
            

[診断にあたっての注意事項]

急性低音障害型感音難聴の診断基準(厚生労働省難治性聴覚障害に関する調査研究班,2017年改定)の参考事項2。蝸牛症状が反復する例がある、と記載されており、難聴が反復する急性低音障害型感音難聴とメニエール病非定型例 (蝸牛型) とは類似した疾患と考えられる。


(2)メニエール病非定型例 (前庭型) (Vestibular type of atypical Meniere's disease)

A. 症状
1.メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが、この聴覚症状は固定性でめまい発作に関連して変動しない
2.第[脳神経以外の神経症状がない
B. 検査所見
1.平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める
2.神経学的検査においてめまいに関連する第[脳神経以外の障害を認めない
3.メニエール病と類似した難聴を伴うめまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる

診断

メニエール病非定型例 (前庭型) 確実例 (Definite vestibular type of atypical Meniere's disease)
A. 症状の2項目を満たし、B. 検査所見の3項目を満たしたもの

[診断にあたっての注意事項]

メニエール病非定型例 (前庭型) は、内リンパ水腫以外の病態による反復性めまい症との鑑別が困難な場合が多い。めまい発作の反復の状況、めまいに関連して変動しない難聴などの聴覚症状を合併する症例ではその状態などを慎重に評価し、内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例 (前庭型) と診断する。


急性めまいのフローチャート

発症様式、誘因・合併症、蝸牛症状、中枢症状で中枢性、末梢性の見当を付ける。

急性めまい診断フローチャート

(メニエール病・遅発性内リンパ水腫 診療ガイドライン2020年版、日本めまい平衡医学会編より引用)


鑑別診断

1)良性発作性頭位めまい症 (BPPV:benign paroxymal positional vertigo)

特定頭位で誘発されるめまい (頭位誘発性めまい) を主徴とし、これに随伴する眼振を特徴とする疾患である。メニエール病では頭位で誘発されない。持続時間も BPPV では1分以内でメニエール病よりも短い。また、メニエール病ではめまい発作に伴って聴覚症状 (耳鳴、難聴、耳閉感など) の変動がみられるのに対して、BPPV ではめまいに随伴する聴覚症状がみられない

2)急性低音障害型感音難聴

急性あるいは突発性に蝸牛症状 (耳閉感、耳鳴、難聴など) が発症する疾患のうち、障害が低音域に限定された感音難聴を呈する疾患である。軽いめまいを訴える例、蝸牛症状を反復する例があることから、メニエール病に移行する例があることを念頭におくべきである。聴覚障害の発作が1回の場合、すなわち急性感音難聴は急性低音障害型感音難聴または突発性難聴と診断し、難聴を反復した場合にメニエール病非定型例 (蝸牛型) と診断する

3)めまいを伴う突発性難聴

突発性難聴の約 40 %にめまいを伴う。メニエール病に伴う聴力閾値上昇は低音域に起こることが多いが、突発性難聴には限定なく、隣り合う3周波数で各30dB以上の難聴が72時間以内に生じた場合を診断基準としている。突発性難聴の場合はめまい発作を繰り返すことはない。そのため、めまい発作と突発性の難聴で発症し、一側耳の低音障害型難聴を示す症例は、メニエール病の初回発作が強く疑われるが「めまいを伴う突発性難聴」と診断し、2回目の発作が起これば「メニエール病」と診断する

4)前庭神経炎

前庭神経炎のめまいは発作性に発症し、強い回転性のめまいが持続する。その際、蝸牛症状 (耳鳴、難聴など) を伴わないのが特徴であり、めまい発作に伴って聴覚症状の変動がみられるメニエール病とは異なる。めまいの持続時間についても、前庭神経炎では24時間以上にわたることが多く、10分程度から数時間程度のめまい発作を特徴とするメニエール病より長い


遅発性内リンパ水腫

遅発性内リンパ水腫とは、陳旧性高度感音難聴の遅発性続発症として内耳にリンパ水腫が生じ、めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である。片耳または両耳の高度感音難聴が先行し、数年から数十年の後にめまい発作を反復するが、難聴は変動しない。

遅発性内リンパ水腫 (Delayed endolymphatic hydrops) の診断基準

A. 症状
1.片耳または両耳が高度難聴ないし全聾
2.難聴発症より数年〜数10年経過した後に、発作性の回転性めまい (時に浮動性) を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分程度から数時間程度
3.めまい発作に伴って聴覚症状が変動しない
4.第[脳神経以外の神経症状がない
B. 検査所見
1.純音聴力検査において片耳または両耳が高度感音難聴ないし全聾を認める
2.平衡機能検査においてめまい発作に関連して水平性または水平回旋混合性眼振や体平衡障害などの内耳前庭障害の所見を認める
3.神経学的検査においてめまいに関連する第[脳神経以外の障害を認めない
4.遅発性内リンパ水腫と類似しためまいを呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知のめまい疾患を除外できる

診断

遅発性内リンパ水腫確実例 (Definite delayed endolymphatic hydrops)
A. 症状の4項目とB. 検査所見の4項目を満たしたもの
遅発性内リンパ水腫疑い例 (Probable delayed endolymphatic hydrops)
A. 症状の4項目を満たしたもの

(メニエール病・遅発性内リンパ水腫 診療ガイドライン2020年版、日本めまい平衡医学会編より引用)