カゼを引いたら漢方薬

カゼに葛根湯?

カゼの漢方薬というと葛根湯(かっこんとう)が有名ですが、葛根湯はカゼの引き始めに有効です。すなわち、背筋がゾクゾクする、熱っぽい、クシャミや鼻水が止まらない、のどが痛い、頭痛、関節痛などに首筋の凝りがある時には葛根湯がよく効きます。これらは身体の表面の症状で、漢方では『表証(ひょうしょう)』と いいます。カゼの引き始めに用いられる漢方薬は葛根湯の他にも麻黄湯、小青竜湯、桂枝湯、香蘇散などがあります。漢方薬はその人の証、すなわちその時の状態に随って処方されます。カゼの引き始めに用いられる漢方薬5つとも『表寒証(ひょうかんしょう)』に用いられます。


表裏(ひょうり)』『寒熱(かんねつ)

カゼをひいている状態を表証と裏証 (りしょう) 寒証(かんしょう)熱証(ねっしょう)に分けることができます。表証は前述したように身体の表面に現れる症状です。裏証は食欲不振など消化器症状や、咳や痰など呼吸器症状のように、 体内から現れる症状です。寒証は体が冷えている状態で、熱証は熱をもった状態です。したがって『表寒証(ひょうかんしょう)』とは身体の表面が冷えている状態をいいます。


表寒証に用いる生薬

表寒証に用いられる生薬には、桂枝(けいし)、麻黄(まおう)、紫蘇葉(しそよう)などがあります。これらの生薬は身体の表面を温めて汗をかかせます。これを漢方では解表(げひょう)といいます。


麻黄剤

葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は麻黄を含んでいるのでひとまとめにして麻黄剤といいます。カゼの初期の寒気や熱はウイルスの増殖を抑えたり、抗体産生を強めるなどの目的に適った現象と 考え、この時期に無理やり解熱剤で熱を下げたりせず、麻黄剤で身体を温めます。飲むタイミングがピッタリ合うと、劇的にウイルスを撃退し、その結果として汗が出て熱が下がります。


桂枝湯、香蘇散

麻黄湯が飲めないような胃腸が虚弱で、汗をかきすぎると体力を消耗してかえってカゼが長引いてしまうような人には桂枝湯(けいしとう)があります。桂枝湯は桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、 大棗(たいそう)の5つの生薬から成ります。ちなみに桂枝湯に麻黄と葛根が加わったものが葛根湯です。桂枝はシナモン、ニッキのことで天然のニッキを口に含ん で噛んでみるとポワ−ッと体が温まります。また熱っぽくて顔が赤らんでいる時に、上昇した気を下げる作用があります。芍薬は筋肉や関節の痛みを取ります。生姜、甘草、大棗は胃を守ります。もっと虚弱で、桂枝湯 よりもマイルドに発汗させるお薬が香蘇散(こうそさん)〈香附子、蘇葉、陳皮、生姜、甘草〉です。香蘇散も桂枝湯と同じく、麻黄を含みません。


傷寒論(しょうかんろん)

1800年前、中国で編纂された「傷寒論」は中国医学の古典です。傷寒とは「カゼ」とか「急性感染症」のことです。傷寒論の太陽病篇に桂枝湯の記載があります。その中から一部抜粋すると「・・・汗出で悪風の者は、桂枝湯之を主る」と記載されています。それに対して「・・・汗なくして喘する者は、麻黄湯 之を主る」とあります。このように発汗の有無が、桂枝湯を使うかどうかの一つの目標になります。


半表半裏(はんぴょうはんり)

熱が上がったり、寒気がしたり(往来寒熱)と未だ表証が去らざる時に、口が苦い、味がしない、食欲不振などの消化器症状や、咳・痰などの気管支炎の症状がでてきたら、表証と裏証の中間に熱邪が入り込んできたということで半表半裏といいます。半表半裏では小柴胡湯(しょうさいことう)を使います。 小柴胡湯の目標に頭痛や関節痛といった表証の症状があれば、桂枝湯も使いたいということで桂枝湯と小柴胡湯の合剤である柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)を用います。もっと虚弱で頭に汗をかくような虚証の方には、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)があります。


舌診(ぜつしん

寒熱はその人の自覚症状を最優先しますが、表裏を見分けるには舌と脈の所見を参考にしています。脈が浮いて触れる表証では、舌にほとんど苔が付いていないか、付いてもうっすらとです。それに対して、脈が沈んで触れるような裏証では舌に厚い苔が付いています。その中間が半表半裏です。

薄い苔 厚い苔
表証 半表半裏 裏証
半表半裏

裏寒証(りかんしょう)

カゼの引き始めは表寒証だけでなく、裏も冷えている裏寒証で発症する方もいます。裏寒証では裏も強力に温める麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)があります。麻黄附子細辛湯は「傷寒論」の少陰病篇に「ただ寝んと欲するなり。」と記載されているように、とにかく寒気が強くて、フトンに入って寝ていたい という時に用いられます。とくに老人や若年者でも虚弱者のカゼの初期で寒気が強い時に用います。


妊婦さんのカゼには?

妊婦さんにしてはいけない3ヵ条というのがあります。それは過度の発汗、利尿、瀉下です。すなわち汗をかき過ぎない、オシッコ出過ぎない、瀉下とは下剤で下痢することです。したがって、発汗、利尿作用のある麻黄や、瀉下作用のある大黄は妊婦さんには使い難い生薬です。そういう意味では、前述した桂枝湯や香蘇散などが妊婦さんのカゼ薬としては比較的安全な漢方薬です。しかしながら、カゼをひいて2〜3日してから受診したときには、すでに表証から半表半裏に移行していたなどということもありますので、妊婦さんや胃腸が弱くて風邪薬が飲めないような方は、あらかじめ処方しておいてもらって、ゾクゾク寒気がしてカゼかなと思ったらスグ飲めるように、手元に常備しておくとよいでしょう。


ひとくちメモ

インフルエンザと漢方治療

2005年2月、インフルエンザが流行っていた日曜日に休日診療を受診した82例中、急性発熱で受診された方は約半数の43例 (小児17、成人26) であった。以下は、インフルエンザ様疾患に対する漢方処方の実際である。急性発熱43例中、約半数の21例がインフルエンザであった。その内訳はA型が3例、B型が18例であった。インフルエンザ21例には抗ウイルス薬(タミフル®) を処方した。これらの内、約半数の10例に漢方薬を併用した。残り18例はインフルエンザ陰性、4例は検査未施行であった (表1)。

                
表1 急性発熱 43例 (小児17例、成人26例)
インフルエンザA型 3(1)
インフルエンザB型 18 (9)
インフルエンザ陰性 18 (5)
検査未 4(4)
43 (19)

( )内は漢方薬処方例数

表2 併用した漢方薬
麻黄湯 2
麻黄附子細辛湯 5
真武湯 3
小柴胡湯 3
柴胡桂枝湯 2
柴胡桂枝乾姜湯 2
小建中湯 2
19

漢方薬を併用した19例の内訳は表2のように、表証に対し麻黄剤は麻黄湯2例のみで、腹痛を訴えた小児2例に小建中湯(しょうけんちゅうとう)を処方した。小建中湯は桂枝湯に飴を加え、小児に内服しやすくなっている。裏寒証の5例には麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、3例に真武湯(しんぶとう)を処方した。真武湯は下痢とめまいがあり、この時のめまいは地面に吸い込まれるようなめまいである。残り7例は半表半裏で、柴胡剤 (小柴胡湯3、柴胡桂枝湯2、柴胡桂枝乾姜湯2) を処方した。


( 第3回市民公開講座「漢方で元気」栃木県総合文化センタ− 2005.3 )