季節性の流行病

流行病には季節性があります。春は普通感冒をおこすライノウイルスが多い。梅雨時はパラインフルエンザウイルスが多く、声嗄れや喘息の症状を起こします。夏かぜの代表疾患といえば、コクサッキ−ウイルスなどによるヘルパンギ−ナ、手足口病とアデノウイルス感染による咽頭結膜熱(プ−ル熱)が定番です。秋はライノウイルスによる普通感冒や、気管支喘息の発作もよくみます。冬はRSウイルスによる細気管支炎や肺炎、インフルエンザウイルスによる重症の感冒症状が多くなります。

表.小児急性呼吸器感染症に多い原因微生物

ウイルス細菌
6歳未満RSウイルス
パラインフルエンザウイルス
肺炎球菌
インフルエンザ菌
6歳以上インフルエンザウイルス
アデノウイルス
肺炎マイコプラズマ
炎症の指標であるCRP3mg/dl以上だとウイルスよりも肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。
RSウイルスは鼻咽頭ぬぐい液から最も多く検出される。
RSウイルス感染症患児の半数が急性中耳炎を合併し、とくに2歳未満で多い。
RSウイルス単独発症の急性中耳炎は治りやすいが、細菌感染症を合併すると治りにくい。
参考:第59回日本化学療法学会シンポジウム「小児急性呼吸器感染症に対する抗菌薬適正使用」

肺炎マイコプラズマ肺炎

【マイコプラズマとは】ウイルスと細菌の中間の微生物で、ヒトに感染を起こすマイコプラズマ・ニューモニエが気道の粘膜などに付いて2〜3週間の潜伏期間の後、宿主の過剰な免疫応答が悪さをして肺炎や肺外に多彩な病変を起こします。

せき込む男性

主に学童から若年成人で、鼻水は目立たず、発熱とともに痰の少ない乾いた咳がでて、熱がある割には比較的元気な場合、マイコプラズマ肺炎が疑われます。最近は高齢者の気管支炎や肺炎の原因としても多いようです。細菌と違ってペニシリンやセフェム系の抗生物質が効かないため、臨床症状からマイコプラズマ感染症を疑うことが重要です。

【診断・治療指針】→こちら


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RSウイルス感染症

【原 因】RSウイルスとは、毎年冬を中心に流行する、乳児の細気管支炎を起こすことで有名なウイルスです。呼吸器系のウイルスでは、インフルエンザウイルスとともに2大病原です。RSウイルスは11月から12月がピークとなり、その後、インフルエンザが流行しだすと目立たなくなります。

【症 状】12月にタラタラ透明な鼻みずを垂らした、3歳以下のかぜのお子さんの50%はRSウイルスです。また、高率に中耳炎になります。大半のお子さんは鼻かぜで治りますが、お母さんから譲り受けた抗体がなくなる頃(生後3〜6ヵ月)、たまたま細気管支炎を起こす場合があります。

【注意点】喘息と同じようにゼーゼーして、昼間は元気でも、短時間の内にハアー、ハアハアーという感じで呼吸数が1分間に60(乳児の正常呼吸数は40/分、大人は12〜20/分)を超えると、入院して呼吸管理を要しますので、夜間でも救急外来を受診してください。とくに早産児、1才未満の乳児、心臓や肺に基礎疾患のあるお子さんは要注意です。乳児の場合には、熱が出ないこともあり、普段の呼吸状態、ミルクの飲み具合や機嫌をよく見ておきましょう。


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インフルエンザ

突然の高熱、全身倦怠感などで発症するインフルエンザウイルスによる感染症です。毎年12月下旬〜3月下旬を中心に流行します。

日本気象協会によると、湿度が60%を下回る日が多くなると、インフルエンザの患者数も急激に増加します。また、最低気温が5度を下回る日が多くなると急に増えます。つまり、インフルエンザウイルスは空気の乾燥と低い気温で長い間生存します。

【診 断】従来は流行時季と症状から診断されていましたが、最近は鼻やのどから採取した検体を迅速診断キットで検査することにより、その場でより正確に診断できるようになっています。

【治 療】抗インフルエンザウイルス薬を発症後48時間以内に投与すれば、発熱や全身症状が1〜2日間短縮します。従来、タミフル®内服薬とリレンザ®吸入薬(いずれも5日間服用または吸入)のみでしたが、2009年にタミフルが効かないウイルスが世界各国で多発し、2010年に1回の吸入で長時間にわたってウイルスの増殖を抑えるイナビル®吸入薬が使えるようになりました。合併症がなければ、ほぼ7日以内に軽快します。また、内服できないような重症例にラピアクタ®点滴注射液も登場しました。

熱がある間は感染力が強く、熱が下がって2日経過するまでは出席停止とします。(学校保健法、第2種伝染病)

【予 防】乳幼児では熱性けいれんや意識障害、お年寄りでは肺炎の併発が怖いので、インフルエンザ発症予防にワクチン接種が勧められています。われわれ医療従事者もインフルエンザで寝込んでは患者さんを治療できませんので11月に予防接種しています。月齢6ヵ月〜6歳の乳幼児では、免疫獲得が未熟との理由で2回接種を勧めています。


  • ひとくちメモ

インフルエンザ予防接種の対象

米国予防接種諮問委員会勧告によるインフルエンザ予防接種の対象(2005年)によると、インフルエンザワクチンは月齢6ヵ月以上の者に適用するとしています。合併症を起こし易いハイリスク・グループの中に、65歳以上の者その他、2004年から新たに「月齢6ヵ月〜23ヵ月の乳幼児」が追加されました。これは月齢23ヵ月までの乳幼児は、インフルエンザ罹患時に重篤化しやすく、入院頻度がきわめて高いからです。

妊娠中にインフルエンザシーズンを迎える妊婦さんへの予防接種も推奨されており、妊婦へのインフルエンザワクチン接種で母子ともに予防効果が期待されています。ただし、一般的に妊娠初期は自然流産が起こりやすい時期であり、この時期の予防接種は避けた方がよいようです。


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A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

A群溶血性レンサ球菌により乳幼児では咽頭炎、年長児では扁桃炎が現れ、冬季と春から初夏にかけて流行のピークがみられます。通常、咽頭炎患者との接触により感染します。 したがって、手洗いが有効な予防策となります。

3〜4日の潜伏期の後、突然の発熱とだるさ、のどの痛みで始まり、咽頭壁のむくみ、一部に滲出性扁桃炎を認めます。軟口蓋は強い発赤、小点状出血、小濾胞(細かいブツブツ)、約40%で舌が真っ赤(苺舌)になります。

迅速診断キットによってウイルス性咽頭炎と鑑別します。

治療は、アモキシシリン(AMPC)などペニシリン系抗菌薬を10日間内服します。再燃や急性糸球体腎炎などの続発症を予防したり、家庭内や集団での流行を防ぐために指示された期間はきっちり内服する必要があります。


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咽頭結膜熱(プ−ル熱)とは

咽頭結膜熱とは、保育園や幼稚園、小・中学校でプ−ルが始まる時期にアデノウイルスに感染して発熱、結膜炎、咽頭炎を起こす夏かぜで、幼児、学童に好発します。感染経路は飛沫感染、接触感染によりますが、プ−ルでは直接接触や、水を介して結膜から直接、あるいは経口的にも感染し、感染力が強い。

感染して5〜7日の潜伏期の後、突然高熱、頭痛、食欲不振で始まり、のどの痛み、目が真っ赤に充血、下痢などを伴います。最近は、冬のインフルエンザと同じように、外来で咽頭から約15分でアデノウイルスを検出する迅速診断キットがありますので、かかりつけの小児科や耳鼻科で聞いてみてください。

インフルエンザのように有効な抗ウイルス薬はありませんが、3〜5日で熱が下がり、結膜充血や咽頭発赤もとれてきますので心配はいりません。感染力が強いため、学校保健法で第2種伝染病に指定されており、主要症状が消褪後2日間は出席停止となります。


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ヘルパンギーナ

ヘルパンギーナ   夏は、お子さんが突然高熱(38〜40℃)で来院されることが多い。同時にのどの痛みがあり、見るとのどちんこ(口蓋垂)付近の小水疱、小潰瘍、発赤が認められます。

主にエンテロウイルス、A群コクサッキーウイルスによって起こります。患者は乳幼児が中心で、夏季に流行します。潜伏期は2〜4日です。症状は一般に2〜4日程度で軽快しますが、まれに髄膜炎や心筋炎などを合併することもあります。

手足の水疱や結膜炎の有無をみて、手足口病やプール熱と鑑別します。治療は対症療法によります。


手足口病

夏季(6〜8月を中心)に5歳以下で、乳幼児を中心に流行します。コクサッキ−ウイルス、エンテロウイルスが主な原因で、経口あるいは糞口を介して感染し、強い伝染性があります。口内炎が出現し、手のひらや足の裏に水疱がみられます。熱が出ることもあります。

一般的に症状は軽く、通常、特に治療は必要としませんが、まれにエンテロウイルス71型が脳炎を起こして重篤化することがあるので、注意深く観察する必要があります。


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流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)

2〜3週間の潜伏期を経て発症し、唾液腺の腫脹を特徴とするムンプスウイルス感染症であり、通常1〜2週間で軽快します。

1993年、MMRワクチン中止以降3〜4年周期で患者増加をくり返しています。4歳が最も多く、3〜6歳で全体の60%を占めています。

症状は、一側あるいは両側の耳周囲(耳下腺)が腫れて触ると痛がります。また、顎の下(顎下腺)や舌下(舌下腺)が腫れることもあります。そのほか、飲み込む時の痛みや熱が出たりします。

感染者と接触しなくても、一緒に遊んでいるだけでも感染します。ただし、感染しても症状が現れないこともあります(不顕性感染、30〜35%)。一度、血液中の抗体検査をしておくとよいでしょう。抗体が陰性なら、今後、感染・発症の機会があるので、ワクチンを接種しておくとよいでしょう。

流行性耳下腺炎の合併症には軽症の無菌性髄膜炎、ごく稀にムンプス難聴を合併し、永続的な障害を残す原因となります。そのほか、思春期以降の男性で睾丸炎、女性では卵巣炎があり、将来不妊の原因の一つとなります。

耳下腺が腫れている間はウイルスの排泄が多いので、腫れが引くまで出席停止とされていましたが、平成24年4月より唾液腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態良好までと改訂されています。(学校保健安全法施行規則、平成24年4月)


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はしか(麻疹 ましん

麻疹ウイルスは空気や飛沫を介して、あるいは接触により感染します。その感染力は極めて強く、感染者と同じ部屋にいるだけでうつります。麻疹ワクチンを接種しておらず、麻疹に罹患したことがなければ、ほぼ100%発病します。

2歳以下の乳幼児が大半を占めていますが、2007年は成人麻疹が流行しました。とくに20歳代前半での増加が目立ちました。これらの患者さんの多くは乳幼児期に麻疹ワクチンを接種してない人か、接種を受けても十分な免疫が得られないケースです。また接種後、年数の経過とともに免疫が減弱してくることもあります。

2006年から日本も諸外国並みに麻疹と風疹のワクチンを混合したMRワクチンを、1〜2歳未満(1期)と小学校就学前(2期)の2回定期接種となっています(それまでは1〜7歳未満の間で1回接種だった)。また、厚生労働省は「麻疹に関する特定感染症予防指針」に基づき、2008年から2012年度までの5年間、定期予防接種の機会が1回しかなかった年齢層で中学1年生(3期)、高校3年生(4期)の時期にMRワクチンの追加接種を無料で実施しています。

例年4月〜6月は麻疹流行のピークになりますので、麻疹ワクチンを接種しなかった人で麻疹に罹患したことがない方は、至急ワクチン接種を受けましょう。接種や罹患の有無がわからない場合は、お近くの医療機関で抗体検査をしてもらえばわかります。

麻疹の発症、経過の特徴

1〜2週間の潜伏期の後、

カタル期(2〜4日):38℃前後の発熱、くしゃみ、鼻水、咳、眼症状など。熱が下がった頃、頬っぺの内側に白斑(コプリック斑)が出現する。

発 疹 期(3〜4日):再び高熱(39〜40℃)となり、特有の発疹(小鮮紅色斑が暗紅色丘疹、それらが融合して網目状)が耳の後ろから首、顔、体幹、腕、足の順に広がる。成人では乳幼児に比し、咽頭痛の頻度が高い。

回 復 期(7〜9日):熱が下がり、発疹が消え、色素沈着を残す。

※1,000人に1人は脳炎になって死亡したり重い後遺症を残すことがあります。


百日咳−長引く咳は要注意−

百日咳菌による感染症で、患者の鼻咽頭や気道の分泌物とともに菌が飛散、飛沫感染または接触感染により拡大します。

2007年は複数の大学で集団発生が起こり、成人を中心に急増しています。2010年5月の時点で、20歳以上の割合が54.9%と、過去10年で最高となっています。かつて、百日咳は主に乳幼児で流行する感染症でしたが、いまや小児の疾患ではなくなってきています。

1981年にジフテリア・百日咳・破傷風三種混合(DPT)ワクチンが定期予防接種に導入されて以降、百日咳患者が減り、流行の規模が小さく、間隔が長くなってくると、今度はワクチン接種後に自然罹患による追加免疫(ブースター効果)が得られない世代が増えるという結果になりました。

乳幼児期にDPTワクチン(生後3〜18ヵ月で4回接種)を接種しても、11〜12歳の時点で約半数が発症予防に十分な抗体価を持っていないことがわかっています。厚生労働省は11〜12歳を対象に、現在接種している破傷風・ジフテリア二種混合(DT)ワクチンの代わりに百日咳を加えた既存のDPTワクチン接種を検討しています。

長引く咳

1〜3週間の潜伏期間後、感冒様症状が現れ、1〜2週間のうちに咳が増え、程度も強くなる(カタル期)。次の痙咳期では、短く連続的に咳き込み(スタッカート)、ヒューと音を立てながら息を吸い込む(リプリーゼ)発作をくり返す。痙咳は2〜3週間ほど持続し、徐々に終息するも、散発的な発作の終息に2〜3ヵ月を要することもあります。

成人やワクチン既接種児の百日咳は、典型的な症状がなく、軽症なことが多いため、時に“長引く風邪”と見過ごされてしまうことがあります。咳が始まって少なくとも3週間は排菌が続くため、周囲へ感染が拡大していきます。ワクチン未接種の乳児が感染すると肺炎や脳症などで生命にかかわることもあります。

検査と治療

百日咳菌の分離培養、遺伝子検査は一般的ではなく、一般外来で血清診断を行います。百日咳凝集素価を測定し、DPTワクチン未接種児・者はワクチン株(東浜株)と流行株(山口株)いずれかシングル血清で40倍以上の上昇、DPTワクチン接種児・者は、2週間以上間隔のペア血清でワクチン株と流行株いずれか4倍以上の有意上昇で百日咳と診断します。

マクロライド系抗菌薬2週間内服で感染拡大を予防します。


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