成人肺炎診療2024 | |
(成人肺炎診療ガイドライン2024から引用) |
肺炎は「肺実質(肺胞領域)の急性の、感染性の炎症」と定義される。したがって、肺炎の診断では、炎症の場が肺実質であるか、経過は急性であるか、微生物によって引き起こされた炎症であるかを判断することが重要です。
肺炎の症状としては、発熱、咳嗽、喀痰、呼吸困難、胸痛といった呼吸器症状と、発熱、倦怠感、食欲不振、ふらつきや体動不能、意識障害といった全身症状が認められます。
診察所見では、胸部聴診で典型的な水泡音 (coarse crackles) が聴取されることが多く、生命兆候では発熱、頻脈、頻呼吸、SpO2低下が認められることがあります。重症例では意識障害、ショックを来すこともあります。
細菌性肺炎の血液検査所見では、好中球優位の白血球増多、炎症反応[C反応性蛋白(CRP)・血沈・プロカルシトニンの上昇] が認められます。
胸部X線検査では気管支透亮像を伴う浸潤影が細菌性肺炎の所見です。
肺炎は原因菌の観点から、細菌性肺炎と非定型肺炎に大別することができます。細菌性肺炎に対しては βラクタム系薬が有効であるのに対し、非定型肺炎では同系薬が無効であり、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬が有効です。
一方、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス等のウイルス性の肺炎もあります。臨床症状として咽頭痛や鼻汁の感冒様症状に加えて発熱、乾性咳嗽等を特徴とし、感染症患者と接触歴を有することも多い。検査所見では、白血球やCRP、プロカルシトニン等の炎症反応は比較的低く、画像所見としては両肺に散在する気管支肺炎パターンのすりガラス影を呈することが多い。
また、発症の場や患者背景、病態の観点から、市中肺炎 (community-acquired pneumonia:CAP)、院内肺炎 (hospital-acquired pneumonia:HAP)、医療・介護関連肺炎 (nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP) に大別されます (図1)。
一般的にCAP患者は基礎疾患がなく(あっても軽微であり),耐性菌が原因菌となる頻度は少なく、他の肺炎分類よりも予後は良好です。これに対して、HAPは何らかの基礎疾患を有していることに加えて、耐性菌が原因菌となるリスクが高く、死亡率は3分類のなかで最も高い。NHCAPは耐性菌リスクや予後の点でCAPとHAPの中間的位置付けになります。老衰や疾患末期に起こった肺炎など、個人の意思を尊重して治療しないという選択肢もあるというのがNHCAPの分類ができた理由です。
院内肺炎 (HAP) | 医療・介護関連肺炎 (NHCAP) | 市中肺炎 (CAP) |
図1 | 肺炎の分類 |
問診と診察所見から肺炎を疑った場合は、血液検査、胸部X線検査を行い、診断を確定します。
肺炎の診療には原因菌の推定、同定が重要であり、喀痰が得られる場合は喀痰のグラム染色・培養検査を行い、必要な場合は血液培養も提出する。
また、迅速診断法として尿中抗原検査 (肺炎球菌、レジオネラ菌)、喀痰抗原検査 (肺炎球菌)、咽頭ぬぐい液抗原検査 (肺炎マイコプラズマ)も有用。
肺炎をCAP、NHCAP、HAPに大別し、診療を行うことが推奨されています。
患者背景のアセスメントを行いつつ、新型コロナウイルスを含めた微生物の同定や推定のための検査を行い、肺炎のタイプ別に診療を進めていきます(図2)。
図2 | 肺炎診療の流れ |
まず、はじめに適切な治療の場を決定することが重要となります。重症度評価で重症〜超重症の場合は敗血症性ショックと同様、集中治療室 (intensive care unit:ICU) またはこれに準ずる全身管理が可能な病室へ入室となります。重症度が中等症〜重症の場合は一般病棟への入院とし、軽症〜中等症の場合は外来治療も選択肢となります。原因菌検索により原因菌が同定または推定できた場合には標的治療, できない場合は治療の場に応じたエンピリック治療※(外来患者群治療、一般病棟入院患者群治療、ICU入院患者群治療) を行います。
※エンピリック治療: | 経験的治療。感染症の場合、医師が原因を特定する以前の初期治療で、可能性の ある菌を想定して抗菌薬・抗ウイルス薬を投与すること |
(成人肺炎診療ガイドライン2024より引用一部改変)
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