急性鼻副鼻腔炎の定義、病態

定 義発熱の有無を問わず「くしゃみ、鼻汁、鼻閉を主症状とする場合、急性鼻副鼻腔炎を疑うとともに、
急性ウイルス性鼻副鼻腔炎か急性細菌性鼻副鼻腔炎かを判断する。
急性細菌性鼻副鼻腔炎は「急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で鼻閉、鼻漏、
後鼻漏、咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義する
病 態多くは急性鼻炎に引き続き生じる。ウイルス感染が発端となることが多く、感冒の経過中に上気道全般に生じる炎症の一環として発症することが多い。原因微生物としては、ライノウイルスやパラインフルエンザウイルスなどの上気道炎ウイルスとともに肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラカタラーリスが主な原因菌とされる。
急性鼻副鼻腔炎の病態を考える際、ウイルス感染と感染後に併発する細菌感染の経時的変化を考慮します (図1)。

図1.感染相より見た急性鼻副鼻腔炎の病態


急性鼻副鼻腔炎の診断

プライマリ・ケアを対象としたACP/CDCの指針では、急性細菌性鼻副鼻腔炎の診断と抗菌薬治療の
適応は、10日以上症状が持続する (10-day mark) 場合や重複例、ウイルス性疾患の軽快後に再度悪化
した場合に限定されています。一方、経過観察中に症状が増悪する (double sickening) 場合 (図2)
には、10日を待たずに急性細菌性鼻副鼻腔炎と判断し、抗菌薬の適正使用に基づく治療を行うことが
推奨されています。

図2.10-day markとdouble sickening

ACP/CDC:The American College of Physicians(APC) and Centers for Disease Control and Preventions(CDC).

新型コロナウイルス感染症と急性鼻副鼻腔炎

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック後ではより的確な急性細菌性鼻副鼻腔炎の診断
(10-day mark,double sickening) が大切となる.「急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年追補版」
に準じ、鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽 (小児)、顔面/頭頚部痛・圧迫感 (成人)の臨床症状、鼻汁・後鼻漏の
鼻腔所見により急性鼻副鼻腔炎を診断するとともに、重症度を分類することが推奨される (表1)。

また、小児では臨床症状の訴えが明確でない点に配慮して 1) 膿性鼻汁または後鼻漏の確認、
2) 湿性咳嗽の有無の確認が重要となります。

表1.急性鼻副鼻腔炎スコアリングシステムと重症度分類

症状・所見なし軽度/少量中等度以上
臨床症状鼻 漏
(時々鼻をかむ)

(頻繁に鼻をかむ)
不機嫌・湿性咳嗽
(小児)

(咳がある)

(睡眠が妨げられる)
顔面/前頭部痛・圧迫感
(成人)

(がまんできる)

(鎮痛剤が必要)
鼻腔所見鼻汁・後鼻漏
(漿液性)

(粘膿性少量)

(中等量以上)

軽度:1-3 中等度:4-6 重症:7-8

(日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン.日本鼻科学会誌2010;49(2):143-247より作成)


急性鼻副鼻腔炎の治療

【抗微生物薬適正使用の手引き】

成人例/小児例のいずれにおいても,

  • 軽症例には抗菌薬投与を行わない.
  • 中等症例または重症例に対しては抗菌薬投与を検討する.
  • 第一選択としては、アモキシシリン水和物 (AMPC) 内服5〜7日間が推奨される.

※ 重症度は表1.急性鼻副鼻腔炎スコアリングシステムと重症度分類を参照.

薬剤耐性を考慮して、急性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬は、AMPC あるいは CVA/AMPC を第一選択とし、
実臨床における治療指針として、治療アルゴリズム (図3) を示す。

急性鼻副鼻腔炎診療アルゴリズム

図3.急性鼻副鼻腔炎診療アルゴリズム

軽症例に対しては、抗菌薬治療を行わず5日間の経過観察と対症治療を行うことが推奨されます。
中等症以上に対しては、抗菌薬使用を考慮する際には投与前に鼻汁細菌検査を行うことが望ましい。
抗菌薬治療の第一選択としては AMPC (高用量) (経口1回500mg・1日3回) を用います。
小児の場合も同様に AMPC (常用量:経口1回10〜20mg/kg・1日3回,高用量:経口25〜30mg/kg・
1日3回) を用います。
抗菌薬投与期間は5日間を原則とし、細菌感受性結果や臨床症状をみながら薬剤の変更を考慮します。
その他の選択としては、中等症例で AMPC が無効であった場合の第二選択、重症例あるいは、中等症例
で BLNAR の関与が強く疑われる場合、レスピラトリーキノロンあるいは経口第三世代セフェム系抗菌薬
(高用量) を検討します。(小児ではレスピラトリーキノロンの代わりに経口カルバペネム系抗菌薬を検討)
抗菌薬の全投与期間は7〜10日間とします。

治療薬の選択 (成人)

基本

  • AMPC 経口 1回 500mg・1日3回 5日間
  • CVA/AMPC 経口 1回 250mg・1日3〜4回 5日間

その他の薬剤:以下を選択肢として考慮する

  • 経口セフェム系抗菌薬
    例:CDTR-PI 経口 1回 100mg (高用量 200mg)・1日3回 5日間、他
  • レスピラトリーキノロン
    例:LSFX 経口 1回 75mg1日1回 5日間、他

(気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版).感染症学雑誌 96 Supp.:S1-S22,2022より引用一部改変)


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