甲状腺とは?

甲状腺

甲状腺は、首の前下方にある蝶が羽を広げたような形の臓器で、ふつうは薄っぺらで外から触れてもよくわかりません。

海藻などの食べ物に含まれるヨードを原料に、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)という2種類の甲状腺ホルモンを作る重要な働きをしています。

このホルモンは新陳代謝を活発にして、摂取した栄養素を十分活用されるようにする、いわば人間の元気の源で、小児の成長にも欠かせません。

甲状腺疾患:3つのタイプ

甲状腺疾患全体の9割をバセドー病と橋本病、腫瘍が占めます。圧倒的に女性に多く、バセドー病と橋本病の9割が30〜50歳代の女性です。

表1.代表的な甲状腺疾患3種類
甲状腺機能亢進症甲状腺の機能が異常に高くなり、ホルモンの分泌が過剰になる。例)バセドー病が大半で自己免疫疾患
橋本病(慢性甲状腺炎)炎症が起きて機能が低下する自己免疫疾患
甲状腺の形の異常単純性びまん性甲状腺腫、結節性甲状腺腫

バセドー病と橋本病は、自分自身の細胞やタンパク質を異物とみなして攻撃する抗体がつくられてしまう”自己免疫疾患”です。この場合、表2のような多彩な症状が現れます。頸部を触診して甲状腺腫を触れる時は、表3のような甲状腺機能検査や自己抗体の有無を検査します。

甲状腺の形の異常は、甲状腺全体が腫れる「単純性びまん性甲状腺腫」と甲状腺内にしこり(腫瘍)ができる「結節性甲状腺腫」があります。どちらも自覚症状はほとんどありません。結節性甲状腺腫では、触診で表面が滑らかで弾力があれば良性ですが、でこぼこで弾力がなく固く触れる場合は悪性(がん)の可能性があるため、超音波検査や穿刺吸引細胞診ができる施設へ紹介しています。


多彩な症状

甲状腺の働きが亢進してホルモンが過剰に分泌されるバセドー病や、逆にホルモンが低下する橋本病(慢性甲状腺炎)は、首の腫れ以外に多彩な身体・精神症状が現れます。

表2.バセドー病と橋本病の主な症状
バセドー病(機能亢進症)橋本病(機能低下症)
汗が多い・暑がり無気力
疲れやすい皮膚乾燥
動悸浮腫
手・指の震え寒がり
頸部の腫れ頭髪の脱毛
体重減少物忘れ・動作緩慢
いらいらする便秘

これらの症状は他の疾患でも見られるもので、問診と首の触診から甲状腺疾患を疑い、血液中の甲状腺ホルモンや自己抗体を調べる検査が重要になります(表3)。


検査・診断−重要なホルモン、抗体検査

表3.甲状腺疾患の主な検査

  • 甲状腺ホルモン(サイロキシンT4、トリヨードサイロニンT3)
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
  • 甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体,TSHレセプター抗体)
  • 放射性ヨード検査
  • シンチグラム検査
  • 画像診断(超音波,CT,MRI)
  • 穿刺吸引細胞診

治 療 法

バセドー病では甲状腺ホルモンの産生を抑える抗甲状腺薬の内服が第一選択で、その他微量の放射性ヨードを含むカプセル剤を飲み、亢進した甲状腺の機能を改善するアイソトープ治療があります。これらの治療ができない場合は、手術で甲状腺の大部分を切除(甲状腺亜全摘術)します。いずれも一長一短があります。

橋本病の治療は、不足している甲状腺ホルモンを補充することにより劇的に改善します。

腫瘍は、良性の場合で患者が甲状腺の腫大を気にしている時は、甲状腺腺腫や腺腫様甲状腺腫の一部で甲状腺ホルモン投与により、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を抑制することによって腫瘍をある程度コントロールすることができます。コントロール不能で美容上問題な時や結節性甲状腺腫で良・悪性の判断が難しい場合は手術で切除します。


  • ひとくちメモ

"亜急性甲状腺炎"

ウイルス性と考えられる突然の感冒様症状で発症します。多くは「のどの痛み」を感じ、のどの風邪と間違われやすいですが実際は甲状腺に限局した頸部の痛みで、しばしば37〜38℃の微熱も出ます。痛みは移動することもあります。甲状腺の組織が炎症のために壊れて、ホルモンが一時甲状腺から漏れ出るためにバセドウ病のような全身的な症状が出ますが、次第に正常化して自然に回復します。

症状が軽い場合は非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、強い場合は副腎皮質ステロイドの内服で痛みはとれます。これらは6〜8週間かけて減量します。


"無痛性甲状腺炎"

多くの場合、慢性甲状腺炎(橋本病)の状態に何らかの誘因が加わって甲状腺が破壊される病気(甲状腺機能亢進症)で、出産後に多いが出産と無関係に起こることもあります。

症状は甲状腺機能亢進の症状で、その名の通り痛みはありません。

治療は通常必要なく、1〜4ヵ月で自然に軽快します。


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