アレルギー性鼻炎の定義・分類

定 義アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のT型アレルギー性疾患で、原則的には発作性反復性のくしゃみ、鼻漏 (水様性)、鼻閉を3主徴とする。
分 類鼻炎は広く鼻粘膜の炎症を指す(表)。鼻粘膜の炎症は滲出性炎症で、その中でも感染性炎症、アレルギー性炎症が多い。いずれも血管からの液性成分の滲出、浮腫、細胞浸潤、分泌亢進を特徴としている。

表1 鼻炎の分類

1.感染性
a. 急性鼻炎 b. 慢性鼻炎 c. ウイルス性 d. 細菌性 e. その他
2.アレルギー性
a. 通年性アレルギー性鼻炎 b. 季節性アレルギー性鼻炎 c. local allergic rhinitis (LAR)
3.非アレルギー性
a. 血管運動性鼻炎 b. 好酸球増多性鼻炎 c. 薬物性鼻炎 d. 職業性鼻炎 e. 老人性鼻炎
f. 味覚醒鼻炎 g. 萎縮性鼻炎 h. 妊娠性鼻炎 i. その他

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023より)

検査・診断

アレルギー性の検査には、アレルギー性か否かの検査と抗原同定検査があります。

前者には問診、鼻腔内所見(鼻鏡、内視鏡検査)、鼻副鼻腔X線検査、血液・鼻汁好酸球検査、血清総IgE定量が、後者には皮膚テスト、血清特異的IgE検査、鼻誘発試験がある。問診や鼻腔内の観察により、アレルギー性鼻炎の典型的な鼻粘膜所見と症状を呈する場合は、臨床的にアレルギー性鼻炎と判断してもよい。臨床診断が困難な場合や、抗ヒスタミン薬が効かない場合、またはアレルゲン免疫療法を施行するときには抗原同定検査を行います (図1)。

診断と治療の流れ

図1 アレルギー性鼻炎の診断と治療の流れ

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023より)

分 類

1. 原因抗原侵入経路と抗原
抗原は吸入性食物性 (経口性)、接触性 (経皮膚性)、その他血行性 (経静脈性) に分けられる。このうち吸入性が大部分で、なかでも花粉、室内塵ダニ、真菌類が多い。
2. 好発時期
季節性 (多くは花粉症) と通年性 (ダニ、ペット、真菌類など) に分けられるが、ダニと花粉の重複が増加傾向にある。
3. 病型
くしゃみ・鼻水型鼻づまり型、両者がほぼ同じ場合は充全型
4. 重症度
各症状の程度、検査成績の程度、視診による局所変化の程度などで患者の重症度を決定する。症状はくしゃみ、鼻漏と鼻閉の強さの組み合わせで決める (表2)。
            

表2 アレルギー性鼻炎症状の重症度分類

程度および重症度くしゃみ発作*または鼻水**
++++
21回以上
+++
11〜20回
++
6〜10回

1〜5回

+未満
鼻閉++++   一日中完全につまっている最重症
+++   鼻閉が非常に強く、口呼吸が
1日のうち、かなりの時間あり
重 症
++   鼻閉が強く、口呼吸が1日の
うち、ときどきあり
中等症
+ 口呼吸は全くないが鼻閉あり軽 症軽 症
− 鼻閉なし軽 症無症状

*1日の平均発作回数, **1日の平均鼻かみ回数

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023)


治 療

T.治療法 (Treatments)

アレルギー性鼻炎の治療法は患者とのコミュニケーション、抗原除去と回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法に分けられる。

表3 治療法

@患者とのコミュニケーション
A抗原除去と回避
ダニ:清掃、除湿、防ダニフトンカバーなど
花粉:マスク、メガネなど
B薬物療法
ケミカルメディエーター受容体拮抗薬 (抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬) (鼻噴霧用、経口、貼付)
ケミカルメディエーター遊離抑制薬 (鼻噴霧用、経口)
Th2サイトカイン阻害薬 (経口)
ステロイド薬 (鼻噴霧用、経口)
生物学的製剤 (抗IgE抗体)
血管収縮薬 (α交感神経刺激薬) (鼻噴霧用、経口)
その他
Cアレルゲン免疫療法 (皮下、ダニスギ舌下免疫)
D手術療法
鼻粘膜変性手術:下甲介粘膜レーザー焼灼術、下甲介粘膜焼灼術など
鼻腔形態改善手術:内視鏡下鼻腔手術T型、内視鏡下鼻中隔手術T型など
鼻漏改善手術:経鼻腔的翼突管神経切断術など

アレルギー性鼻炎治療薬はケミカルメディエーター遊離抑制薬、受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬、ステロイド薬、生物学的製剤、その他に分類される。

表4 アレルギー性鼻炎治療薬

@ケミカルメディエーター遊離抑制薬
インタール、リザベン、ソルファ、アレギサール、ペミラストン
Aケミカルメディエーター受容体拮抗薬
a)ヒスタミンH1受容体拮抗薬 (抗ヒスタミン薬)
第1世代ポララミン、タベジールなど
第2世代ザジテン、アゼプチン、ゼスラン、ニポラジン、レミカット、アレサガ、アレジオン、エバステル、ジルテック、リボスチン、タリオン、アレグラ、アレロック、クラリチン、ザイザル、ディレグラ、ビラノア、デザレックス、ルパフィン
               
b)ロイコトリエン受容体拮抗薬 (抗ロイコトリエン薬)
オノン、シングレア、キプレス
c)プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
バイナス
BTh2サイトカイン阻害薬
アイピーディー
Cステロイド薬
a)鼻噴霧用:リノコート、フルナーゼ、ナゾネックス、アラミスト、エリザス
b)経口用:ベタメタゾン、セレスタミン
D生物学的製剤
抗IgE抗体:オマリズマブ (ゾレア)
Eその他
非特異的変調療法薬、生物抽出製剤、漢方薬

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023より)

U.治療法の選択 (Strategy and stepwise approach)

1.通年性アレルギー性鼻炎 (Perennial allergic rhinitis)

治療法は病型と重症度の組み合わせで選択するが、その選択は画一的なものではない。表はその1つの選択基準を示します。

表5 通年性アレルギー性鼻炎の治療

重症度 軽   症 中等症 重症・最重症
病 型 くしゃみ・鼻漏型 鼻閉型または充全型 くしゃみ・鼻漏型 鼻閉型または充全型
治 療 @第2世代
  抗ヒスタミン薬
A遊離抑制薬
BTh2サイトカイン
  阻害薬
C鼻噴霧用ステロイド


@、A、B、Cの
いずれか一つ
@第2世代
  抗ヒスタミン薬
A遊離抑制薬
B鼻噴霧用ステロイド




@、A、Bのいずれか
一つ。必要に応じて@
またはAにBを併用
する
@抗LTs
A抗PGD2・TXA2  薬
BTh2サイトカイン
C第2世代抗ヒ薬・
  血管収縮薬配合剤
D鼻噴霧用ステロイド

@、A、B、C、Dの
いずれか一つ。必要に
応じて@、A、BにD
を併用する
鼻噴霧用
ステロイド薬

第2世代
抗ヒスタミン薬
鼻噴霧用ステロイド薬

抗LTs薬または
抗PGD2・TXA2

もしくは

第2世代抗ヒスタミン
薬・血管収縮薬配合剤

オプションとして点鼻
用血管収縮薬を1〜2
週間に限って用いる
鼻閉型で鼻腔形態異常を伴う、
保存療法に抵抗する場合は手術
アレルゲン免疫療法 (皮下、ダニ舌下免疫)
抗原除去・回避

症状が改善してもすぐには投薬を中止せず、数か月の安定を確かめて、ステップダウンしていく

遊離抑制薬:ケミカルメディエーター遊離抑制薬、抗LTs薬:抗ロイコトリエン薬

抗PGD2・TXA2薬:抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023年)

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2.花粉症 (Seasonal allergic rhinitis)

例年、強い花粉症症状を示す方には初期療法が推奨されます。予測される花粉飛散量と、もっとも症状が強い時期における病型、重症度をもとに用いる薬剤を選択します。

表6 重症度に応じた花粉症に対する治療法の選択

重症度 初期療法 軽 症 中等症 重症・最重症
病 型 くしゃみ・鼻漏型 鼻閉または充全型 くしゃみ・鼻漏型 鼻閉が主の充全型
治 療 @第2世代抗ヒ薬
A遊離抑制薬
B抗LTs
C抗PGD2・TXA2
DTh2サイトカイン
  阻害薬
E鼻噴霧ステロイド



@〜Eのいずれか
一つ
スギ
@第2世代抗ヒ薬
A遊離抑制薬
B抗LTs
C抗PGD2・TXA2
DTh2サイトカイン
  阻害薬
E鼻噴霧ステロイド



@〜Eのいずれか
一つ
@〜Dのいずれか
に加え、Eを追加
第2世代
抗ヒスタミン薬

鼻噴霧ステロイド
抗LTs薬または
抗PGD2・TXA2

鼻噴霧ステロイド

第2世代抗ヒ薬
もしくは
第2世代抗ヒ薬・
血管収縮薬配合剤

鼻噴霧ステロイド
鼻噴霧ステロイド

第2世代
抗ヒスタミン薬
鼻噴霧用ステロイド薬

抗LTs薬または
抗PGD2・TXA2

第2世代抗ヒ薬

もしくは

鼻噴霧用ステロイド薬

第2世代抗ヒ薬・
血管収縮薬配合剤

オプションとして点鼻
用血管収縮薬を2週間
程度、経口ステロイド
薬を1週間程度用いる
抗IgE抗体
点眼用抗ヒスタミン薬または遊離抑制薬 点眼用抗ヒスタミン薬、遊離抑制薬
またはステロイド薬
鼻閉型で鼻腔形態異常を伴えば手術
アレルゲン免疫療法 (皮下、スギ舌下免疫)
抗原除去・回避

初期療法はあくまでも本格的花粉飛散に向けた導入であり、重症度に応じたシーズン中の治療に早めに切り替える

遊離抑制薬:ケミカルメディエーター遊離抑制薬、抗LTs薬:抗ロイコトリエン薬

抗PGD2・TXA2薬:抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2

※最適使用推進ガイドラインに則して使用する

(鼻アレルギー診療ガイドライン2023年)

その他

1.妊婦および授乳婦 (Pregnant women and Lactating mothers)

妊娠中はうっ血性鼻炎の傾向となり、症状は悪化することが多く、また妊娠、出産後に発症することもあります。妊婦中および授乳中の治療は、胎児や乳児に与える影響を考えて慎重を要します。一般に催奇形性が問題となる妊娠2〜4か月 (胎児の器官が形成される期間) は薬剤を避けましょう。鼻づまりには、専用の器具を用いて43℃に加熱した蒸気を鼻より吸入するサーモライザー局所温熱療法、入浴、蒸しタオル、マスクなど薬物を使わない方法を試してみましょう。

妊婦さん

妊娠5ヵ月を過ぎると、薬剤による奇形の心配はない。しかし、内服した薬剤は妊婦の胎盤を通って胎児に移行して機能的発育に影響を与える (胎児毒性) 可能性があります。また授乳婦が内服した薬剤は母体血液から母乳中に微量移行します。したがって、妊婦および授乳婦の薬は注意が必要で、局所用薬が中心となります。妊娠5ヵ月以降で薬が必要なら、鼻噴霧用ケミカルメディエーター遊離抑制薬、鼻噴霧用抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬など局所用薬を少量用います。

2.小児 (Child)

小児におけるアレルギー性鼻炎の発症は低年齢化傾向にある。しばしばアレルギー性皮膚炎 (アトピー性皮膚炎) が先行、合併し、また高率に気管支喘息を合併する。原因抗原は室内塵ダニと花粉が圧倒的に多く、ときにペット、アルテルナリア (カビ) アレルギーを合併する。ダニを駆除、回避したり、ペットと触れ合わないよう注意しましょう。

お子さん

症状は、就寝中の鼻づまりでいびきをかく、鼻水で鼻をすする、鼻が痒くてこすったり、いじったりして鼻血が出やすい。親や兄弟にアレルギー有り。

抗ヒスタミン薬の中枢抑制作用は成人より少なく、ときに興奮状態を誘発することもあり注意を要します。鼻噴霧用ステロイド薬は、成人では副作用がほとんどみられませんが、小児では慎重に投与します。鼻をかんだ後に噴霧します。

3.高齢者 (Elderly)

加齢に伴い、抗原感作率やアレルギー性鼻炎の有病率は低下する。高齢者では、鼻粘膜の萎縮と血流減少により、鼻腔の加湿、加温機能が減弱する。

鼻かみ爺さん

加齢により生じる鼻症状の1つとして水のような鼻水が垂れる、いわゆる老人性鼻漏があります。これは、加齢に伴う粘膜の萎縮によって鼻腔内に水分を保持できない状態です。水様性鼻汁がアレルギー性鼻炎と類似するも、その他の症状はありません。

高齢者では頑固な後鼻漏 (鼻汁がのどに下がる) が長年続いている方がいます。加齢に伴う粘膜萎縮による繊毛機能の低下、粘弾性の高い鼻汁の増加に加え、鼻の奥 (後鼻孔から上咽頭) における知覚過敏も関係するとされています。

高齢者では多剤服薬していることが多く、薬剤相互作用に注意が必要です。また緑内障や前立腺肥大を合併する頻度が高く、老年症候群 (認知力低下、転倒、失禁など) をも合併することがあるため、抗ヒスタミン薬投与時には病歴をよく確認しなければなりません。


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