オーダーメイド医療

78歳のTさんは家から往復2時間の市中病院で喉頭(こうとう)がんと診断され、放射線治療の後、喉頭摘出手術を勧められました。しかしTさんは手術に踏み切れず、大学病院で再検査を受け、外来で様子をみることになりました。

4年以上が過ぎたころ、紹介状を持って私の診療所を受診しました。83歳の高齢とは思えない元気なTさんは、軽自動車の助手席に奥さんを乗せ往復1時間かけて来院します。幸い喉頭がんの再発はなく、治療後の経過は順調でしたので、その旨ご家族にもメッセージを書いて渡しました。

春に来られると、次は涼しくなってから。秋に再診されると、次は暖かくなってから。今年亡くなられるまで、いつしか4年が経過しました。最後に見えられた時は、奥さんに先立たれた後なので、さすがにいつもの元気さがなく、気落ちしていた様子でした。

最近、学会では「診療ガイドライン」という言葉が盛んに言われ、また日常診療の現場では「オーダーメイド医療」という言葉をよく耳にします。ガイドラインとは、専門学会が全国どこでも同様の治療が受けられるように、画一的な診断治療を定めたものです。一方、オーダーメイド医療とは「個人の特性に応じた医療」です。

個人の特性に応じ最善策

しかしガイドラインがあるからといっても、同じ病気を持った人に同じ治療法を強制することはできません。患者さんにも個別の事情があり、その人の生活様式を考慮に入れた、個人の治療プログラムが組まれ治療するのが望ましく、それが「オーダーメイド医療」なのです。

治療法の説明を受け、さらに別の医療機関に診断や治療について意見を聞く”セカンドオピニオン”を求めたTさんは、結果的に良い選択をされたのではないかと思います。また、Tさんの意見を快く受け入れてくれた大学病院の医師の適切な対応もよかったと思います。信頼して相談できる医師がいるということは大切なことです。

私がTさんに会うのは半年に一度でしたが、この間、絶えずTさんを励ましてくれたのは持病の呼吸器病をみてくれていた地元の内科の先生でした。このような”かかりつけ医”をもっていることの大切さを、教えてくれた事例でした。

(平成17年8月下野新聞 かかりつけ医のココロ)


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