めまいの西洋医学的診断と東洋医学的アプロ−チ

めまいの西洋医学的診断と東洋医学的証の関連性をみるため、2003年1月〜6月に当院を初診しためまい患者40人(男性12、女性28、18〜83歳)について耳鼻咽喉科的検査をするとともに、問診、舌診、切診より東洋医学的証にもとづいて分類した。

めまいの月別件数

めまいの月別件数は右グラフのように、3月と6月にピ−クがあった。めまいの性状は、グルグル回転性めまいが17例、フワフワ浮動性めまいが23例であった。

眼振検査

右写真は赤外線カメラで眼振(めまい時の眼球の振れ)を観察しているところ。その結果、眼振を認めた17例の内訳は、左右方向の水平性眼振が14、回旋性眼振が2、水平回旋性眼振が1であった。23例は眼振を認めなかった。


めまいの西洋医学的診断

内耳性めまいが12例で、その内訳はメニエ−ル病6、良性発作性頭位眩暈(BPPV)3、突発性難聴1、その他2であった。

耳性めまい
(耳)
12メニエール病6   BPPV3
突発性難聴1   その他2
中枢性めまい
(脳)
1大脳ラクネ梗塞 1
全身性めまい
(循環器)
高血圧5   低血圧3
神経障害
(自律神経)
自律神経失調症1   起立性低血圧3
頸性めまい
(頸)
変形性頸椎症2
原因不明13心因性2   その他11

耳以外の原因としては中枢性1例(脳梗塞)、全身性8例(高血圧5、低血圧3)、神経障害4例(自律神経失調症1、起立性低血圧3)、頸性めまい2例(変形性頚椎症)であった。心因性2を含む13例は原因不明であった。

めまいの東洋医学的分類

□ 肝鬱化火型
□ 痰湿中阻型12
□ 肝陽上亢型
□ 腎精不足型
□ 気血両虚型
□ 中気不足型5(重複あり)
□ 分類不能型12

この分類については後で解説するとして、東洋医学的に分類できた28例中、痰湿中阻型が12例と痰飲(水毒)によるめまいが多数を占めた。その他、実証のめまいは肝鬱化火型が3例であった。虚症のめまいは肝陽上亢型7例、中気不足型5例、腎性不足型4例、気血両虚型3例でした(重複あり)。12例は分類不能であった。

処方方剤(24例)

□ 半夏白朮天麻湯15
□ 苓桂朮甘湯
□ 五苓散
□ 釣藤散
□ 補中益気湯
□ 加味逍遥散
□ 当帰芍薬散
□ 牛車腎気丸
□ 六君子湯1(重複あり)

24例に処方した漢方方剤36処方中、半夏白朮天麻湯15、苓桂朮甘湯6、五苓散1(重複あり)と、利水剤が21例(87.5%)、22処方(61%)を占めた。その他、釣藤散5、補中益気湯4、加味逍遥散2、当帰芍薬散1、牛車腎気丸1、六君子湯1であった。(重複あり)


眩暈の分類

東洋医学では、何かが過剰な実証のめまいと何かが足りない虚証のめまいに分けて考える。実証のめまいには、下表のように肝気鬱結(肝鬱)型、肝火上炎型、痰湿中阻型、夜、悪化するお血阻滞型がある。それぞれに用いる代表方剤を表中に記してある。一方、虚証のめまいで、虚熱ののぼせ、眼球結膜の充血などを特徴とする肝陽上亢型には釣藤散などが適応となる。腎精不足では、腎陽虚には八味地黄丸、牛車腎気丸を、腎陰虚には六味丸を用いる。その他、気血両虚、中気不足型がある。

  実   証代表的方剤
肝気鬱血型:精神的抑うつにより発生、悪化四逆散、逍遥散、抑肝散など
肝火上炎型:肝鬱の状態がのぼせなど熱証竜胆瀉肝湯、加味逍遥散など
痰湿中阻型:余分な痰湿が陰液や気の流通を阻害利水剤
お血阻滞型:うっ血による慢性の頭痛、めまい桂枝茯苓丸など
  虚   証
肝陽上亢型:疲れ,精神抑鬱により肝陰が不足釣藤散など
腎精不足型:加齢や過労により腎精の消耗八味丸、腎気丸、六味丸など
気血両虚型:慢性に気血を消耗する加味帰脾湯、加味逍遥散
当帰芍薬散
中気不足型:気虚の体質や慢性疾患による脾胃気虚補中益気湯が最適

痰飲たんいんとは?

体の中の”水”の偏在を”痰飲”、日本では”水毒””水滞”ともいう。体内の”水”を”痰”、”飲”、”湿”などと表現される。肺の痰湿、胃の痰飲などといい、それぞれ湿性ラ音、心窩部振水音としてその存在がわかる。痰飲のうちで首から上の失調症状を呈するものを”痰獨”といい、めまい・頭重・耳鳴りなどの症状と関連がある。その他、痰飲 (水毒) の症状としてはむくみ・口渇・発汗過多などがある。

「利水」の生薬

利水の生薬には茯苓、猪苓、沢瀉、朮(ジュツ)がある。他にもヨク苡仁、防已など直接、間接的に利水作用のある生薬は多数ある。

茯苓(ブクリョウ) 猪苓(チョレイ) 沢瀉(タクシャ) 白朮(ビャクジュツ)
茯苓(ブクリョウ)猪苓(チョレイ)沢瀉(タクシャ)白朮(上)蒼朮(下)
茯苓はサルノコシカケ科に属する担子菌ブクリョウの菌核で松の根っこに形成する。古くは『神農本草経』に記されている。『重校薬徴』に「利水ヲ主ル故ニ停飲、宿水、小便不利、眩、悸、潤同ヲ治シ、兼ネテ、煩燥、嘔渇、下痢、咳、短気ヲ治ス」と解説されている。 蒼朮(ソウジュツ)

猪苓はチョレイマイタケというきのこで『本草綱目』で「弘景曰く、その塊は黒くして猪屎に似ているところからなづけられたのである」と記されている。『和語本草綱目』で「小便ヲ利シ湿ヲ除キ水腫、腹満、淋病、帯下、脚気、口渇ヲ治ス」とある。

沢瀉は「沢水の傾瀉する如く、小便を出すとの意味がある」と古事に伝わるが、尿或いは頻尿、胃内停水、冒眩、口渇など、水毒を利尿により逐し、利尿効果を大いに期待する代表生薬である。

はキク科のオケラ、ホソバオケラの根茎で『神農本草経』に薬物として最初に記され、健胃、整腸、利尿を目標にして応用されている。

(自然の中の生薬、株式会社ツムラより引用)


漢方の「利水剤」とは偏在した水を適正なバランスに戻すのであって、西洋薬の単なる利尿剤とは異なる。

「めまい」は痰飲(水毒)の一症状である。

「めまい」の適応症を持った処方

  • 五苓散(ごれいさん)
  • 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
  • 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

五苓散(茯苓、猪苓、沢瀉、白朮、桂皮)

5つの生薬から成っている。茯苓、猪苓、沢瀉、白朮と、先程の水を捌く生薬4つすべて入った四苓湯に、気逆を改善する桂皮が入ることによって、四苓湯よりもさらに利水作用が強くなっている。

適応症を見てみると、浮腫、ネフローゼ、悪心・嘔吐、尿毒症といった水が余っている状態に五苓散を服用すると、おしっこがたくさん出ます。ところが、二日酔い、下痢、暑気あたり、糖尿病といった水が足りない時に五苓散を服用すると、尿量が減って、水のアンバランスを改善するように働く。ここが西洋薬の利尿剤と異なるところである。

五苓散の重要な使用目標に”口渇”がある。

苓桂朮甘湯(茯苓、桂皮、白朮、甘草)

茯苓、桂皮、白朮、甘草の4つの生薬の頭文字をとった名前の方剤である。茯苓と白朮は利水作用、桂皮は気を巡らす。甘草は消化・吸収を助け、諸薬を調和するとともに、抗利尿作用によって血中の水分を保持するように働く。白色で多量の痰・舌苔、四肢の冷えなどの寒証をともなう脾気虚・痰飲が原因の慢性めまいに適している(五苓散が急性期のめまいに適するのに対して)。

半夏白朮天麻湯(半夏、白朮、茯苓、陳皮、人参、生姜、沢瀉、天麻、黄耆、黄柏、麦芽)

全部で12の生薬から成る。このうち、半夏、白朮、茯苓、陳皮、人参、生姜に甘草と大棗を足すと六君子湯になる。すなわち、基本は六君子湯で、さらに利水の沢瀉、めまいを治す天麻、それにもう少し虚証寄りの人たちに使う生薬が追加されている。このように、胃腸虚弱で六君子湯を使うような人で、めまいがあったときに使う。

( 日本東洋医学会栃木県部会第11回学術集会 平成15年9月 )


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