偶然の虚偽?ー沢木つばくろうー

たまに学会などで上京する時、新幹線車内座席後面に置いてあるJR東日本発行の月刊誌「トランヴェール」を、いつも何気なく見ている。今回6月30日朝、いつものように宇都宮駅から上りの新幹線に乗車した際、6月最後の日にしては表紙がくたびれてないなと思いながら巻頭エッセイ「旅のつばくろ」に目を通した。著者の沢木耕太郎氏が、鎌倉霊園に墓参りに行った帰りに鶴岡八幡宮、鏑木清方記念美術館にふと寄り道した。そこで折れた大木の根株から出ている新しい緑の芽に気づいたり、鴨長明の運命的な『方丈記』に思いを馳せたり、父親が書き残したエッセイから思いがけない出会いに導いてくれた寄り道の効用が記されていた。いつもは読み過ごしているところだが、きょうは何故か沢木氏の観察力や物書きだから当然といえば当然だが、博学であったり勉強熱心なところに甚く感心する。なによりも文章の内容が読み手の中に入ってくる。作家だから多少は盛って創作しているのだろうが、氏の近刊を読んでみようかなという思いに駆られた。

トランヴェール6月号 トランヴェール7月号

その日の午後、帰りの新幹線車内でふと今朝読んだトランヴェールを手に取ってみると、目新しい表紙の7月号に変わっていた。沢木氏の連載はと走り読みすると、テーマが軽井沢で私には今朝のような感動はなく、期待するほどの内容はなかった。とは言え、私のような素人が数々の文学賞を受賞するような作家の作品を批評するほどの素養はなく、ただ単に一個人の嗜好に合うか合わないかだけで、毎回テーマを変えての連載は大変だなと思う。

沢木流に言えば、今回、滅多に新幹線に乗らない私が、たまたま6月号と7月号の記事を同じ日に読めた偶然が、滅多に書かない私をここに導いてくれたのだ、と。学会などで年に数回、新幹線を利用するだけだが、列車内での氏の記事を軽い読み物として楽しみにしている。もし同氏の連載が単行本として出版されたら、すぐにネットで取り寄せて読んでみよう。


令和元年7月1日


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