消化器症状の漢方治療
消化管運動の調節 |
胃が不要なものを下方に動かし(胃の降濁)、飲食物から必要なものを体内に取り込んで合成しながら上方に誘導する(脾の昇清)。この2つの機能が消化管の動きを調節しています。
排泄が主体となる大腸では、肺の降濁という機能も関わります。すなわち脾胃だけでなく、肺の状態も消化管の動きに関与しています。
脾で作られた気血津液は、肝の疎泄(そせつ)によって肺まで運搬されます。したがって、肝気の異常も腸管の動きを左右します。
このように、消化管の動きを下に導くのは胃気と肺気の共同機能に、肝気が関わっています。
ちなみに、出口(直腸、肛門)の開閉には腎の開閉機能が関わっています。
中焦気滞(ちゅうしょうきたい) |
体を上から上・中・下焦の3つに分け、中焦は胸部・上腹部にあたります。脾は正常でも、肝の働きが悪いと(肝脾不和)、中焦で渋滞して下痢したり、肝気が胃気を押し上げてゲップがでたりします。これを中焦気滞といいます。中焦での気の巡りを調節する理気薬には陳皮、半夏、枳実、厚朴などで、半夏厚朴湯、小柴胡湯、抑肝散(加陳皮半夏)などの方剤があります。
六君子湯(りっくんしとう)
中焦での気の巡りを順調にさせる代表方剤です。健脾作用をもつ四君子湯に陳皮、半夏を加えることで、中焦の気の巡りを主に下降性に強めようとしています。
抑肝散加陳皮半夏(よっかんさんかちんぴはんげ)
六君子湯の人参の代わりに、柴胡で肝気を伸ばし、釣藤鈎で気を下降性に誘導し、中焦の気の巡りを改善させます。過敏性腸症候群や神経性下痢、機能性の腹痛などによく用いられます。
脾気下陥(ひきげかん) |
肝気の発揚ではなく、脾の昇清がうまくいかないため、中焦で気の巡りが悪くなる病態を脾気下陥といいます。中焦に渋滞して胃重感、胃もたれ、その結果下痢にもなります。この状態を改善させるのが、補中益気湯です。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう):黄耆、升麻で脾気を持ち上げ、柴胡で肝気を伸びやかにして発揚を助け、下陥した脾気を表層に導く。さらに陳皮で中焦の気を巡らせ、当帰で血の巡りも助けています。気を増す薬というより、持ち上げて(昇提)巡らせる方剤です。
補中益気湯によって気が全身に、とくに表層や上方に巡り、津液や血が到達するので、消化器症状だけでなく、皮膚の状態やめまいなどの症状の改善にもつながります。
(参考:仙頭正四郎:中医学基礎講座, 消化機能の生理と病態生理, 2007年9月)