耳鳴りの漢方治療
耳鳴りは漢方的病理のうち、「気」「血」「水」と関係があります。そのほか病因として漢方的臓腑のうち、「肝」「腎」「脾胃」の関与が考えられます。
高齢になれば、生体のエネルギーは衰えて多少なりとも腎虚の状態となります。他方、若い人の耳鳴りは肝と気の影響が大きいようです。
すなわち、ストレスで気が停滞(気滞)すると、自律神経系の緊張や亢進により血管壁の緊張やけいれんの症状がでます。この気滞が精神・情緒的な要因に関連して発生する肝気鬱血(イライラ、怒りっぽい)の状態が続くと、のぼせ・不眠など熱証を呈した肝鬱化火という状態で耳鳴りしていることが多いようです。
1. | 肝陽上亢(肝陰虚) |
増減する耳鳴りで、めまいや頭痛、顔面紅潮、不眠、眼の充血、高血圧を伴う”肝陽上亢”の耳鳴りには釣藤散を使います。 | |
2. | 腎 虚(腎陽虚、腎陰虚) |
加齢に伴う難聴があり、セミの鳴き声のような耳鳴りで夜増強する。手足の冷えやほてり、夜間頻尿があったり、漢方でいう”腎虚”の耳鳴りには八味地黄丸や六味丸がよいでしょう。 | |
3. | 水 毒(水分停滞) |
急性に発症しためまいや吐き気、頭重・頭痛を伴う”水毒”に関連した耳鳴りには五苓散、苓桂朮甘湯、当帰芍薬散などが有効です。 | |
4. | 肝鬱化火、血虚 |
肝鬱化火の症候に、血虚すなわち顔色が悪い・皮膚がかさかさする・目が疲れる・ふらつき・筋肉のけいれん・イライラする(肝血虚)などがあれば加味逍遥散を用います。 | |
肝鬱化火、胃気上逆 | |
肝鬱化火の症候に、胃気上逆(気逆)すなわち、気滞の一種で下降すべきものが上逆して上腹部膨満感・便秘などあれば大柴胡湯を用います。 | |
5. | 脾胃気虚(消化器系の機能低下) |
倦怠感、食欲不振、食後の腹部膨満があり、疲労により増悪する”脾胃気虚”の耳鳴りには 補中益気湯や半夏白朮天麻湯を用います。 |
( 日本東洋医学会栃木県部会第19回学術集会 2012.8 )